桜の樹の下 第2回
それは青竜堂のカウンターの脇に山積みの一番上にあった。
それを手に取った。広げてみようと思ったが、なぜだか躊躇われた。この世界にあってはならない物
だ。直感がそう告げている。手に取っただけで、そのまま元に戻した。
次の瞬間、それは消えた!
奈落の底に突き落とされるような眩暈に襲われた。誰かが支えて、いや引きずり戻してくれなかった
ら、どうなっていただろう。腕をつかんでいる主をみた。
面識のない女性がそこにいた 「しっている」
ここには誰もいなかったのに 「恭子」
どうして? 「また、助けてもらった」
奇妙な二重感覚が続いている。
その女性に話しかけようと思った、その時、また世界が大きく歪んで回転を始めた。
うでをつかんでいる手に力が加わって、引きずられた。足の下に地面が感じられた。
「だいじょうぶ」 訊いたのではない。今の状況のこと。
右腕にもたれて恭子がいる。あたりは春爛漫の桜の花が散っている。
いまはこの春の陽気に身を任せていよう。ほんのひととき、息抜きもいいだろう。でも、そんなかりそめ
は長くは続くはずもない。それは恭子も知っているはずだ。
「それ」 恭子がいった。いつから持っているのだろう、右手に皮革装釘の手帳を持っていることに気
がついた。何が書かれた物なのか知るよしもない、その時はじめて目にしたものだ。
! 「青竜堂でみたものだ」
一気にあたりが暗くなった。恭子の手が離れた。
恭子! !
2007-07-01 01:41
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