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桜の樹の下 第2回

 それは青竜堂のカウンターの脇に山積みの一番上にあった。

 それを手に取った。広げてみようと思ったが、なぜだか躊躇われた。この世界にあってはならない物

だ。直感がそう告げている。手に取っただけで、そのまま元に戻した。

 次の瞬間、それは消えた!

 奈落の底に突き落とされるような眩暈に襲われた。誰かが支えて、いや引きずり戻してくれなかった

ら、どうなっていただろう。腕をつかんでいる主をみた。

   面識のない女性がそこにいた    「しっている」

   ここには誰もいなかったのに     「恭子」

   どうして?                「また、助けてもらった」

 奇妙な二重感覚が続いている。

 その女性に話しかけようと思った、その時、また世界が大きく歪んで回転を始めた。

 うでをつかんでいる手に力が加わって、引きずられた。足の下に地面が感じられた。

 「だいじょうぶ」 訊いたのではない。今の状況のこと。

 右腕にもたれて恭子がいる。あたりは春爛漫の桜の花が散っている。

 いまはこの春の陽気に身を任せていよう。ほんのひととき、息抜きもいいだろう。でも、そんなかりそめ

は長くは続くはずもない。それは恭子も知っているはずだ。

 「それ」 恭子がいった。いつから持っているのだろう、右手に皮革装釘の手帳を持っていることに気

がついた。何が書かれた物なのか知るよしもない、その時はじめて目にしたものだ。

        !  「青竜堂でみたものだ」

  一気にあたりが暗くなった。恭子の手が離れた。

     恭子!       !

  

 

 

  

 

 

 


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桜の樹の下  第1回

さくらが吹雪のようにあたり一面に降っている。浮き立つような4月の日。

西行はきさらぎの望月の頃といったが、さくらの一番の季節はやはり4月のこの吹雪のような晴れた日だろう。

ああ、桜の樹の下には屍体が埋(うず)まつてゐる! といったのは、よくいったもの。

向こうの世界にいってしまいそうな、そんな陽気のある日。

 


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はじめに

真理花は表現方法を問わない発表の場だ。

インターネットで真理花を花咲かせようと思う。


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